西国牟斐。悪の喰魂が蔓延り平和とは程遠いこの国で、森の奥の古ぼけた舘に身を潜めるように生活している者がいた。
館の周りは薔薇に囲まれ、窓は常に閉ざされている。その中にいるのは、片翼の翼に赤い瞳、黒薔薇の装飾をつけた2人の青年。
この2人は喰魂だが、完全な喰魂では無い。喰魂であり、人間でもある……擬似喰魂、半喰魂と呼ばれる存在。
1人は人間と喰魂の間に生まれた半喰魂。もう1人はその青年から能力と血を分け与えられ喰魂へと姿を変えた、人間に限りなく近い擬似喰魂。
喰魂と人間……どちらの世界にも居られない2人はこの館で、永遠に共に居ようと誓いを立て生活しているのだ。
「べ〜レ〜ト〜!」
館のとある一室。帽子を被りながら部屋の扉を開けたムルトリエは、椅子に座って頬杖をついて本を読んでいるベレトに駆け寄り思い切り抱きつく。
「ムルトリエ、今日も相変わらず愛らしいな」
べレトは本を置き、ムルトリエの方を見て微笑むと優しく頭を撫でる。ムルトリエはにへ、と笑顔を浮かべ、頬をすりすりする。
「今日の僕は昨日と変わったところがあるんだ、どこだと思う?」
ムルトリエは目を輝かせながらベレトに問い掛けるとべレトはじっとムルトリエを見つめ、分からない様子で首を傾げる。
「どこが変わったんだ?さては見た目の話じゃねぇだろ」
「さすがベレト!僕はね、昨日の何倍もべレトのことが大好きで仕方ないんだよ」
「毎日更新するのはいつもの事じゃねえか?実際俺も昨日の何倍もてめぇが愛おしく見える」
ベレトはそう微笑んでムルトリエを自分の膝の上に座らせる。ムルトリエは一瞬驚いた表情をするが、すぐ嬉しそうな表情に戻り身体を預ける。
「ふふ、べレトが傍に居てくれたら他には何もいらないね……僕は幸せ者だ」
「俺もてめぇが傍に居てくれりゃあそれでいい。死んでも離れてやるつもりはねぇけど」
そんな話をしていると、ふと2人の目が合った。そして流れるように目を閉じ、口付けを交わす。
「……えへへ。愛してるよ、ベレト」
「……あぁ、俺も愛してるぞ、ムルトリエ」
2人はそう愛を囁きながら、暫くの間お互いを見つめあっているのだった。
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