死を讃え、死神を崇めよ

中央国の北端にある、山に囲まれた大きな集落……ブレトロシア集落には、小さな教会がある。

ブレトロシア集落の皆はその教会に毎日3度訪れては、信仰すべきかつての神に祈りを捧げる。

"死神オルトス様に祈りを捧げよ。全ては死という名の永遠の安らぎの為に"……と。

この集落で信仰されている"ルミストス教"は、死が救いであり、死によって人々は罪から解放され、救われると信じられている宗教だ。その教えが何処から広まったかは未だ解明されていないが、現在ルミストス教を広めているのは神父サリュと、修道女のエアレ、レリアの3人で兄妹らしい。


深夜、1人の痩せこけた青年が教会に現れる。

「……兄様。また迷える哀れな魂が現れたようです」

「お兄様、この方を助けてさしあげましょう?」

「ふふ、そうだね。さぁ悩める者、貴方の祈りを聞きましょう……」

サリュの言葉に青年は跪き、祈るように指を組みながら涙を流し語る。

「死神と、彼の場所へと導いてくれる崇高なるサリュ様、どうかお助けください。私は城下町へと働きに出ていましたが、先日役立たずだと解雇されてしまいました。妻はそれを知り息子と家を出ていってしまい、私にはもう生きる理由も気力もなくなってしまったのです。私はどうすればよろしいのでしょうか……」

青年の言葉を頷きながら聞いていたサリュは、青年にこう答える。

「苦しいならば、この世から離れてしまえば良いのです。死こそが我々の苦しみを解放し、安らぎを与えてくれます。何も怖くありません、私達がお手伝いしましょう……最上の世界で、幸福になる資格が貴方にはあるのですから」

サリュが青年の祈る手を両手で優しく包み込みながら笑顔を向けると、青年はさらに涙を溢れさせ、安堵の笑みを浮かべる。

「ああ……私でも、最上の世界へいけるのですか?よかった、よかった……!!サリュ様!!今すぐにでも私を死神のもとへ……最上の世界へ導いてください!!」

「ええ、もちろん……エアレ、レリア。例のものを」

その言葉と共に、エアレとレリアは油と火を灯した松明を持ってくる。そして4人は外に出て、開けた場所へと進む。

「この油を全身に塗り、自らに火をつけなさい。この炎は貴方の罪を浄化し、最上の世界へ導いてくれるでしょう」

そう言ってサリュはエアレとレリアから受け取った油と松明を青年に手渡す。青年は一瞬怖気付くものの、覚悟を決めた様子で油を頭から被る。

「サリュ様……先に最上の世界でお待ちしております」

青年はそう言うと松明の炎を自分へ向ける。すると炎は青年の身体を一瞬で包み込み、青年の断末魔が聞こえだす。

「死が救いであるならば……何故我々が死んでいないのか、考えたことないのかな」

サリュは笑顔で青年の燃える姿を眺めながら呟く。

……その声は燃えて灰になっていく青年の耳には届くことはなく、青年は歓喜の笑みを浮かべたまま命を手放したのだった。


青年の魂はやがて鎮火し、完全に灰となった体から出てくると、サリュの身体に取り込まれる。

「……これで魂は47体目。最上の世界にはあまりにも程遠い、私の道具になってくださいね。哀れな盲信者……」