怒りと崇拝

10年ほど前、南国ガランカにて突然姿を消した大規模組織があった。

その組織の名は"リアヴァス"。様々な事情で居場所を失った人間達で構成された反社会組織だ。

そんなリアヴァスの頂点に君臨していた最後の、そして最強と呼ばれた首領……彼は大切な人の自由の為に、圧倒的な地位を求めた。そして所属して早々に先代の首を斬り落としたという。容姿端麗で青く長い髪が動く度にさらさらと揺れ、彼の歩く姿はまるで裏社会の者であることを悟らせない、"美"という言葉に相応しい存在だった。

彼の名はグラミア、ガランカの裏世界の王。


周りから崇められ恐れられたグラミアはある日、深夜の森の奥で1人の青年を見下ろしていた。

「グラミアさん……すみません、獲物を逃がしてしまいました」

グラミアの名を呼び跪いている黒髪の青年は、グラミアの怒りを宿した瞳と大きなチャクラムが地に着く音に萎縮してしまう。

「レドロットさん。貴方は今まで何度任務に失敗したか、覚えていますか?」

レドロットと呼ばれた青年は顔を真っ青にして、まだそこまで多くは無かったはずだ、と失敗した回数を思い出そうとする。グラミアはその様子を見て呆れたようにため息をつくと、チャクラムでレドロットの腕を切りつける。

「っ……!!」

「今回で2度目です。本来なら1度で処刑行きであることをお忘れですか?リアヴァスには能のない者はいらないと、何度も言ったはずですが」

レドロットは血が溢れ出る腕を押さえながら、グラミアを見上げる。

「申し訳ありません……次こそは良い結果をグラミアさんにお届けすると、約束します」

「無意味な約束などいりません。そのような言葉を発する余裕があるのなら、結果で示してください。貴方を生かしているのは"あの子"の意向であることを、くれぐれも忘れぬように」

グラミアは次また同じ結果になれば容赦はしません、と言い捨ててレドロットに背を向ける。

グラミアの言うあの子とは、大切な人の息子で世話を任されている子らしい。グラミアの周りで彼の本当の姿を知るのはその息子だけで、代を継がせる気は無いらしいと噂で聞いたことがあった。

レドロットはそんな子供1人の意見で、慈悲で生かされていることを改めて突きつけられ、歯を食いしばる。あの日行き場を失った自分を拾ってくれた、神のような存在に失望されている事実が、なによりも悔しかった。

「……オレ、いつか貴方に認められるほど強くなってみせるから……認められて正式に貴方の隣に立って、グラミアさんの名前を世界に刻ませてみせるから……それまでは、どうか__」

__オレを、捨てないでください。

ぽつりと呟いた最後の言葉は、突然降り注いだ雨によって遮られてしまった。