今こそは短いが、昔は後ろ髪を伸ばしていた時期があった。
この夕焼け色の髪を美しいままに保つには、長ければ長いほど良いと思ったから。
しかし。
「……長ければ長いほど人間から離れていく感覚がある。長寿の、強き者の特権なんだろうが…生活していくにはあまりにも邪魔で仕方ないな」
俺はそう言って溜息をつく。そして向かうのは、とある男のいる場所。創設されたばかりの鎮救熒とやらの拠点の近くにある、奴が住むには馬鹿げていると思えるほどの小さな家。
「おかえり、今日も楽しんできたか?」
俺の父と呼べる存在であろうかつての魔力神…ディラウラスは、いつものように俺に微笑みかける。
「大地神が殺されたばかりだと言うのに平気そうだな。少しは悲しそうなふりでもしたらどうなんだ」
俺はそう言っていつものソファーに腰かけると、ディラウラスは困ったように笑う。
「これでもかなり傷ついてるんだがなぁ?それに、俺は君さえ元気でいてくれれば充分だ」
「気持ち悪……」
あまりにも気持ち悪い言葉をすぐ口に出すもんだから素で言っちまったな……まあいいだろう、此奴だし。
「それよりオブルーク、随分と髪の毛が伸びたな?」
ディラウラスはそう言うと俺の髪をさらりと掬う。
「俺が髪を伸ばして何か問題でもあるか?」
「いや?むしろ夕焼け色が映えてて美しいよ、愛おしくていつまでも見ていられるくらいだ。それに……」
……すぐ気持ち悪いこと言うなこの男は。父親とはいえここまで自身の創作物を褒めちぎらないだろ、普通。
「それに、なんだよ」
「ここまで髪が長くなると……ふふ、俺とお揃いみたいだな」
そう言ってディラウラスは足先ほどまである長い髪を見せるとにっこり笑った。一気に寒気がした。普段の此奴が人に興味が無い正確なこともあって気持ち悪さが倍増してやがる。
「…………絶っっ対髪の毛切ってやる……」
その翌日、俺は後ろ髪を切った。反抗だと言われればそうだが、少し困らせたところで怒られはしないだろう。それを見たディラウラスがやけに落ち込んでいたが、見なかったことにしよう。
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