独白

ああ、彼女を失って何年が経ったのだろうか。
付き合うことになってから毎年、この2月14日にハート型のチョコレートをプレゼントしてくれた俺の愛しい妻。
彼女トリーは絶望的に料理が下手で台所に立たせることすら恐ろしかったが、この特別な日だけは目を瞑ってしまうのだ。
俺のために、俺のためだけに不器用ながらも頑張ってくれるトリーが、何よりも愛おしかった。
ベレトが産まれてからもそれは変わらなかったし、ベレトがチョコレートを食べられるようになってからは作られるチョコレートは2倍になっていた。
「美味しい」と言えば幸せそうに笑ってくれる彼女を、俺は心から愛していた。

……愛していたのに。

死なせてしまったのだ。彼女はもう何処にもいないし、転生して現れることもない。
俺が非力だったから。代わりに死んでいなかったから。
……そう、トリーが目の前で死んだ日も今日、2月14日なのだ。
3人で出かけて、思いっきり楽しんだら帰って今年もチョコレートをプレゼントするからと、楽しそうに語っていた彼女は、続くはずだった幸せな日常と共に奪われたのだ。
……だから、今日この日だけは、お前の墓の前で泣くことを許してくれ。
それが俺にとっての贖罪であり、生きる理由なのだから。