日頃の感謝を、親愛なる主に。

デュアルヴェイン陣営の拠点の台所。ヘレシウスはそこであるものを作っていた。

「……こんなものか。数十年ぶりに作ったが出来は悪くないだろう」

目の前にあるのは箱に綺麗に詰められた、様々な色をしたマカロンだった。

ひと月前のバレンタインデーは妻の命日だった。そのためプレゼントを渡して感謝を伝えるのはなかなか乗り気にならなかったのだが、その代わりホワイトデーに渡そうと考えたのだ。

 

その相手はデュアルヴェイン。命の恩人であり唯一忠誠を誓った主。

 

デュアルヴェインは甘党で暇さえあれば喫茶店を巡るほどだったため、渡すなら菓子がいいだろうとマカロンを選んだ。

「さて、あとは渡すだけだが……主は部屋にいるだろうか」

ヘレシウスはマカロンを入れた箱をリボンで飾り、主の部屋に向かう。

目的地に着きコンコン、とノックをすると扉越しにデュアルヴェインの「入れ」の声が聞こえた。

その言葉を聞き、ヘレシウスは扉を開け部屋に入る。

「主、突然すま_」

「今は我ら2人だけだ、楽にしろ」

ヘレシウスの言葉を遮るようにデュアルヴェインは心なしか不服そうに口を開く。ヘレシウスは呆れたように溜息をつき、話を進める。

「……ヴェイン、今日は渡したいものがあって来たんだ」

そう言って持ってきたマカロンの箱をデュアルヴェインに差し出した。

「……貴様が贈り物とは珍しいな」

デュアルヴェインはほんの少し目を見開き、まじまじと箱を見つめる。

「今日はホワイトデーっていってな、本来はひと月前のお返しをする日なんだが……日頃の感謝の気持ちとでも思ってくれ」

ヘレシウスはそう言った後、照れ隠しなのか少し目線をそらす。

「……感謝する。折角だ、よければ貴様も一緒に食べないか」

「一応ヴェインのために作ったんだが……まあお前が言うなら付き合うぞ」

デュアルヴェインが満足そうに頷いた後、箱を開けると微かに口角を上げた。

「……マカロンか」

「作るのは久しぶりだったけどな。不味くは無いはずだ」

その言葉を聞いたあと、マカロンを1つ手に取り、口に運ぶ。

「……ふ、美味いな」

デュアルヴェインはそう言って滅多に見せないような、穏やかな笑みを浮かべた。

「そりゃ良かった。紅茶用意してくるから待っててくれ」

「ああ」

ヘレシウスはデュアルヴェインにそう伝え、紅茶を注ぎに一旦部屋を出てぽつりと呟いた。

「……喜んでもらえてよかった」