「そういえば、べレトはどうして鎮救熒になったの?」
ある日の任務帰り、ヴァイスはべレトにそう問いかけた。
「特に理由はねぇな。てめぇと同じで俺も保護された身だったし」
べレトはそう言うとふぅ、と息を吐いた。
「保護されたってことは……べレトの両親は?」
「母さんは俺が10の時に死んだ。親父は……ある日勝手に居なくなった。生きてるかは分からねぇ」
ヴァイスは自分が投げかけた質問が良くないものだったと気付き、はっとして俯く。べレトはそれに気付いたのか気にすんな、と優しく頭に手を置いた。
「……べレトのお父さんは、どんな人だったの?」
その質問にべレトは微かに目を見開く。そして少し不快そうに答えた。
「母さんがいた時は優しい親父だった。けど母さんが喰魂に殺されてから、数日は生きる気力が無くなったみてぇに部屋から動かなかった。暫くしたら急に朝から晩まで出かけるようになった。帰ってくるたび血塗れでな、復讐でもしようとしてたんだろうが……病気持ちだってのに俺が薬飲めって言っても聞かねぇし突き放されるしで散々だったぜ」
ヴァイスはその話を聞きながら考えている様子だった。オブルークは何を思っているのか、2人の会話を聞きながら、先程買ってきた好物のジンジャーエールを飲んでいた。
「……べレトのお父さんは、鎮救熒の人じゃなかったんだよね?1人だと危険なはずなのに喰魂と戦ってたってこと?」
「無能力者だったんだ、魔法も能力も使えなかったらしい。鎮救熒に入るのを望んでたらしいけどな」
ヴァイスはその言葉を聞いて、何かに気付いたように、はっと顔を上げる。
「べレト、きっと君のお父さんは、べレトを守ろうとしたんじゃないかな」
「……は?」
思いもしなかった答えにべレトは眉を顰める。
「無所属の人が喰魂と戦うなんて、殺した仲間に襲われる危険があるのに簡単にできないんだよ。でも、そうしてでも復讐するほど喰魂を恨んでいたのなら……彼はべレトが喰魂に襲われないように、狙われないようにわざと突き放してたんじゃないかな」
「……わざと?そうか、それならあの時の言葉も……」
べレトは何か思い当たることでもあった様子でぶつぶつと呟き始めた。
「きっと、べレトのお父さんはべレトのことが大好きだったんだね」
ヴァイスがそう微笑むとべレトは驚いたように目を見開き
「……そうだといいがな」
と呟き、微かに目を細めた。
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