小話

『……この世界はあまりにも理不尽だ。 』 この言葉は、ワインレッドの美しい髪色をした、夜空のような美しい容姿をした"彼"が、この世界で生を受け、初めて口に出した言葉だ。 その十字の瞳孔をもつ瞳には希望が見えておらず、酷く絶望している様子だった。...

今日もあの神様は、痛みと苦しみの中で死ぬ。 貴方が僕を見つける前から、僕は貴方のことを知っていた。一日に一度、必ず貴方は死ぬ。殺されたり、事故に巻き込まれたり……時には自ら命を絶つことだってあった。 僕はそんな日々に耐える貴方の、力になりたいと思った。 ……だからあの日、僕は貴方に全てを捧げたんだ。 罪業-5260年のある日。...

…最近、おかしな夢を見る。 山奥で人間に囲まれ、自分がクラミツハを守ってクラミツハが嘆いている中で死んでいく、そんな夢。 詳しい内容は思い出せないものの、目が覚めた時にとてつもない悲しさと不安を感じてしまうのだ。 アドラスは今朝も、その夢を見た。...

罪業-1950年。 氷の国の兵士によって、始祖以外の神々が鏖殺された絶望の年。 この時の世界は地獄そのものであった。人間は巻き込まれるのを避けるために外に出なくなり、神々の死体が毎日どこかに落ちている……そんな日々だった。 「……随分物騒な世界になっちゃったね」 「そうだな、ここもいつまで持つか……」...

今から少し昔の、魔塔にて。 「リヒル君〜俺は退屈だよ、酒飲みに行かない?」 フィスタはリヒルスキアの研究室の中を暇そうにふらふらと歩き回り、研究に没頭していたリヒルスキアにそう呼びかける。 「俺は頭が働かなくなるから酒は飲まないって言ってるだろ。トゥラタキモでも誘ってこい」...

私の弟……プリエールが犯した罪はどこから始まって、ここまで大きくなってしまったのか。 どうして喰魂という存在を人間を実験台にすることで生み出し、世界を混乱に陥れるようなことをしてしまったのか。 私は……どうしてあの時止めてあげられなかったのか。 毎日のように夢に見るあの日の光景、私が犯した愚行。私が片目と翼を失った日の出来事。...

これはヘイルが鎮救熒になるために養護施設を出る、その少し前の話。 ある日の深夜。満月が町を照らしているなか、ラウは養護施設の外に出て人を待っていた。仕事が落ち着いたから旧友同士で話でもしないかと、他でもないアルトから連絡があったからだ。 「ラウ!元気にしてたか?」 「ちょっと貴方、深夜なの忘れてない?もう少し声の大きさを……」...

西国牟斐。悪の喰魂が蔓延り平和とは程遠いこの国で、森の奥の古ぼけた舘に身を潜めるように生活している者がいた。 館の周りは薔薇に囲まれ、窓は常に閉ざされている。その中にいるのは、片翼の翼に赤い瞳、黒薔薇の装飾をつけた2人の青年。 この2人は喰魂だが、完全な喰魂では無い。喰魂であり、人間でもある……擬似喰魂、半喰魂と呼ばれる存在。...

中央国の北端にある、山に囲まれた大きな集落……ブレトロシア集落には、小さな教会がある。 ブレトロシア集落の皆はその教会に毎日3度訪れては、信仰すべきかつての神に祈りを捧げる。 "死神オルトス様に祈りを捧げよ。全ては死という名の永遠の安らぎの為に"……と。...

かつて存在した破滅の国フォキルティムには、月野木家という国内では有名な一家がいた。 その月野木家からは代々、月の使者となる者が現れていた。月に愛され、月の加護を受ける一家だと羨ましがられ、恐れられていた。 しかし、あまりにも突然に月野木家は崩壊した。...

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